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マタリキ・昴・勾玉・猿田彦(6)

魁るもの・ナビゲーター 昴と猿田彦


マオリの「マタリキ」信仰と、日本の「昴」信仰。

重要な共通点の一つは、「魁るもの」「導くもの」としての位置付けです。

北半球の日本と南半球のNZでは、季節も逆だし、星空の見え方も違います。

北半球・日本では、冬の夜空に一番最初に登ってくる星座が「おうし座」。それより先に現れるのが昴。

おうし座の中で一番目立つ赤い星「アルデバラン」の意味は、「後に続くもの」=プレアデス星団7姉妹の後に続くからです。

まず昴が真っ先に夜空に見え、その後におうし座、さらに続いてオリオン座。ギリシャ神話では、オリオンは永遠に片想いで、プレアデスの姉妹たちを追いかけていることになっています。

南半球のNZで、昴は真冬の夜明け前、太陽を導くように先に登ってきます。そして、空が明るくなるまでの僅かな間だけ見えています。

 

昴ー結び合うもの。魁け、導くもの。昼と夜=光と闇の境を開くもの。

この全ての役割を持っている日本の古代神、これが猿田彦神です。

そして、猿田彦とは、実に謎の多い神なのです。

猿田彦の謎を追い、その背景に迫ることが、古代日本の民族的・文化的・宗教的なルーツにつながる鍵に思えます。そして、どうやら、マオリにもつながる海洋民族との深く強いつながりがあるようです。

下の画像は、左(1枚目)が北半球の冬の夜空と昴の位置。右(2枚目)が南半球NZの冬、この画像は地平線下で、実際には夜空にはまだ登っていない位置。昴(M45星団)が、太陽の軌道上の上にあるのがわかります。

猿田彦が登場する「古事記」「日本書紀」の中の有名な場面は、「天孫降臨」のエピソードです。

天孫=天照大神(以下、アマテラスと表記)の孫にあたる邇邇芸命(ニニギノミコト、以下ニニギと表記)一行が地上を治めようと天から降ってきた時に、「天の八衢」(あまのやちまた)=天地の間の交差路で、異様な姿の神が立ちはだかっていた。

ニニギが一行のうちの天宇受売(アマノウズメ、以下ウズメと表記)に、「何者か? ここで何をしているのか?」と尋ねさせたところ、「我は国つ神で、名を猿田彦と言う。天つ神が来られると聞いて、案内しようと待っていたのだ」と答えた。

 

これが、国つ神(地上の神)=土着のリーダーが天つ神(天の神)に使えて、案内役として地上に誘い、国譲りした(無条件降伏、平和的譲渡)の典型的根拠となったエピソードです。

この神話から、猿田彦=「導きの神」という役割が定着。

「先案内」=「道行の杖」と結びついて、猿田彦には「クナト神」(イザナギ神が黄泉の国から戻るときについた杖)+黄泉の国との界・門と守る(災いから守り、幸いを誘う)神の役割もつきました。

時代が後になって、堺や交差路の守り=同祖神としての猿田彦信仰は全国に浸透し、天孫降臨のエピソードで出会ったウズメと夫婦になってずっと連れ添ったことから、2人一緒に同祖神カップル像になり、夫婦円満の神にもなりました。

猿田彦の容貌が、巨漢、赤ら顔で鼻が異常に高く、目が爛々と輝いて辺り一帯・天上天下を照らしていたということから、「天狗」の原型となりました。

また、誕生と死亡のエピソードには海が深く関係していて、死後の猿田彦の体から海の3つの神が生まれたと語られています。この三海神は「住吉三神」と同じ・・・ということは、猿田彦は海の神でもあるのです。

海! 海洋民族の神!

 

なんというマルチな役割の神でしょう!

まるで最高神アマテラスなどブッ飛ぶような、万能の神ではありませんか。

そういえば、猿田彦の容貌で、「目や口から光がほとばしって、天と地、全世界をくまなく照らしている」とあり、実はアマテラスより猿田彦の方が先に太陽神の性格を持っていたという説もあり、私もそうだと思います。

 

あまりにも謎に満ちた猿田彦神。

詳しく容貌を描写されている神は、記紀神話の中で彼一人だそうです。

他の神々の系列に収まらない、異系列の猿田彦。

いや、ここにも、そこにも、猿田彦の別名か?と思われる神々があって、猿田彦の存在が記紀神話の全体を覆っているとも言えるくらい。

 

そこで、仮説。

猿田彦に象徴される日本の先住民(海洋族系列の縄文人)のリーダー(リーダー達)、そのエピソードが大和朝廷目線の記紀神話に大改編された。だからこそ、あちらにもこちらにも、猿田彦は現れ、繋がり、日本の土着信仰とも長く長く結びついて生き残ったのではないか。猿田彦の記憶が、古代日本人から続くDNAとして、私たちの中にある。

そう、私は思うのです。

 

猿田彦とウズメについて、次回以降、さらに考察を深めていきます。

マオリ文化との驚きの共通点も、明らかにしていきます。

 

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